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上智大研究不正調査委員会の主題と人選に関する異議申立書(2)

 (5)次に、以上を踏まえた上で、9月4日に送られてきた文書が求める、委員の人選に関する異議申立を行います。しかし、具体的な内容に入る前に、まず一般的に、この種の調査委員会の人選に関する原則を検討しておきます。
 今回のようなケースの場合、調査委員となるべき人物は、次の条件を満たすべきです。
 (a)本件卒業制作に主題として扱われているテーマに関連する言論や運動に関わっていない者でなければなりません。それは、判断の中立性を確保し人脈的繋がりを避けるためです。
 (b)外部有識者については、上智大学に在籍していた経歴のない人物であるべきです。
 (c)研究者については、現役の研究者であることが必要です。本委員会の中立性は、委員が自身の職業的信用を賭けて判断を下す点によってのみ担保されうるものといえます。証拠を無視したり、必要な検討を懈怠して判断を導いた場合、本人の学術的信用が打撃を受けるという重みがなければ、どのような恣意的な結論も導いてしまうことが可能です。従って、研究者として現役を退いた者は不適格である、ということになります。

 (6)9月4日に着信した文書によれば、今回の調査委員会委員(候補)の名簿は次の通りです。

 ① A(本学教員 外国語学部ドイツ語学科)
 ② B(本学職員 学長付)
 ③ C(外部有識者)
 ④ D(外部有識者(弁護士 卓照綜合法律事務所))
 ⑤ E(外部有識者(弁護士 卓照綜合法律事務所))

 (7)まず、①のA氏は、外国語学部ドイツ語学科の教授で、選出根拠は、内規第11条第4項の(1)に、「研究活動上の不正行為が疑われる被告発者の所属組織(学部又は研究科等)以外の教員1名」とあることによるもので、被告発者の所属組織(大学院グローバル・スタディーズ研究科)とは異なる、外国語学部ドイツ語学科に所属していますから、形式的にはこの内規の規定に合致しているように見えます。
 しかし、そもそも、内規第11条第4項には、「調査委員会の委員は、告発者及び被告発者と直接の利害関係を有しない者で、学長が指名する次の各号に掲げる者とする」という規定があって、その原則の一つの適用例として、(1)の同一の研究組織からの選出を避けるという規定があるものと解されます。
 そこで、この原則に基づいて検討してみると、A教授は中野晃一教授とは所属こそ異なるものの、両者は研究上密接な間柄にあることがわかります。例えば、A教授は、「ソフィア・コミュニティ・カレッジ」の2016年度秋期教養・実務講座「18歳からのメディア・リテラシー」のコーディネーターを務めていますが、10回の講座の中で基調講演の位置を占めると考えられる第1回の講師として中野晃一教授を据えています。
 しかも、10人の中には、荻上チキ(評論家)と堀潤(ジャーナリスト・元NHKアナウンサー)の両氏が含まれています。両氏は、4月20日に「主戦場」の一般映画館での上映が始まった直後の4月24日と25日に、それぞれ、TBSラジオとJ-WAVEの番組に出演し、出崎を招いて彼の商業映画のプロモーション番組の司会役を務めていた人たちです。すなわち、学術研究ではなく同一の方向性の運動に熱心に取り組んでいる、いわば運動上の仲間であり、中野教授につらなる運動上の人脈の中にいる人です。
 従って、A教授は決して中立的な第三者ではなく、中野教授と共通の利害関係をもつ、深いつながりのある人物であり、今回の件について公平な判断を期待することはできないと言わざるを得ません。すなわち、上記(a)の原則に反します。しかも、同教授は学内から選ばれた唯一の教授職の方であるため、内規の規定によって自動的に調査委員会の委員長に就任することになります。
 従って、私はA教授について委員として忌避いたします。800人もいる上智大学の教授の中から、形式的にも実質的にも中野教授の人脈に属さない人を選ぶのは容易なことと想定されます。よりによって、中野教授と人脈的につながる人物は避けるのが常識ではないでしょうか。

 (8)次に、②のB氏は、学長付の職員ということで、特に異議をはさむ理由はありません。

 (9)③④⑤は、「外部有識者」となっていて、委員5名中3名を占めていますが、これは内規第11条第3項で「調査委員会の委員の過半数は、上智学院に属さない外部有識者でなければならない」という規定によるものと理解できます。しかしながら、③のC氏は、肩書きは単に「外部有識者」とのみ表記されていますが、上記の(a)(b)(c)いずれの原則からも、調査委員会の委員としては不適格と言わざるを得ません。
 第一に、C氏は、上智大学に在籍(1992~2009)していた現上智大学名誉教授です。そのうえ、本件被告発者である中野晃一氏(上智大学比較文化学部講師としての着任が2002年)と在任期間も重なります。上記(b)の原則に明確に違反し、「外部」有識者としての客観性を全く欠いております。
 第二に、C氏は、既に現役を退いた名誉教授であり、調査報告でどのような結論を導こうと自身の学術的信用が今後のキャリアに影響するリスクがないため、中立性を担保する資格に欠けると言わざるを得ません。すなわち、上記(c)の原則に反します。
 第三に、すでにA教授について述べたのと同じ理由で、中野教授と同質の方向性を共有している方であり、本件研究において扱われたテーマに関連して、私たちを敵対視するような政治的立場から活発に発言・活動する人物です。
 例えば、C氏は「憲法9条にノーベル賞を」という運動団体の支援者であり、中野、C両氏がこの団体の呼びかけ人になっています。また、「表現の自由を考えよう 市民らが25日、茅ヶ崎で学習会」(2019年1月22日付け神奈川新聞ネット記事)のように、活発な活動を地元でも行っています。このような人選は、上記(a)の原則に反することは明瞭で、この段階に至ってさえもなお、厳正中立な観点から事件を解明するのではなく、研究上の不正行為の実行者らと通謀し事件を有耶無耶にしようとする意図があるのではないかと、疑わざるを得ないものです。
 以上の理由から、C氏についても、忌避させていただきます。

 (10)外部有識者のうち、残りの2名は、いずれも弁護士となっております。しかも、二人の弁護士は、同一の法律事務所に所属しています。お二人は上智大学の顧問弁護士なのかもしれません。こういう状況のもとで、公正な調査と審議が期待出来るのか、はなはだ疑問です。かりに貴学の顧問弁護士でなくても、なぜ同一の弁護士事務所から外部有識者を任命しなければならないのか、疑念を禁じ得ません。外部有識者には公平な判断をできることが外見上も明らかな人物を選ぶべきです。この点、人選枠組みの再考を求めます。

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