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慰安婦ドキュメント「主戦場」 デザキ監督の詐欺的手口 (1)

月刊Hanada 2019年8月号掲載

新しい歴史教科書をつくる会副会長
藤岡信勝

●連載開始にあたって

日本の保守系論者約十人を、学問研究の名をかたって取材し、「慰安婦=性奴隷」説に立ったプロパガンダ映画「主戦場」のなかで侮辱・論難の材料とした事件は、日本の左翼・リベラル派が犯した前代未聞の大規模な計画的詐欺事件として将来記録されるでしょう。
9月19日には、上映差し止めと損害賠償を求める民事訴訟の第一回口頭弁論が午後2時東京地方裁判所で行われます。それに向けて、より多くの方々にこの事件の真相を知っていただき、慰安婦問題にも最終決着をつける一つの機会としてこの訴訟に勝訴すべく、これから拙文を連載します。
各種媒体にご自由に拡散し、ご利用下さいますようお願いいたします。また、ご意見をお待ちしています。 (藤岡信勝記)

「大学院生」という肩書

 今話題の映画「主戦場」の監督ミキ・デザキが、上智大学大学院生として出崎幹根という日本名で、男女二人の院生とともに、東京都文京区水道にある「新しい歴史教科書をつくる会」の事務所に現れたのは、二○一六年九月九日のことだった。藤岡はこの日に、出崎らの慰安婦問題についてのインタビューを受け、それをビデオに録画することを承諾していたのである。

 出崎に同道してきた二人は、岡本明子、オブリー・シリブイ(Silviu Oblea)という名前である。ビデオカメラの操作、マイクの音量の調整、インタビューアーを三人で分担していた。三番目の役目はもっぱら出崎が担っていた。出崎の年齢は三十代と推定され、鼻髭を蓄えたやさ男といった風貌の人物だった。

 日本語を流暢に話す百パーセントの日本人で、ハーフっぽい顔立ちの影はどこにも見当たらなかった。だから藤岡は出崎を、アメリカ留学や在住の経験があるだろうが、普通の日本人と思い込んでいた(実際はアメリカ国籍を有する日系二世のアメリカ人だった)。

 出崎は、〈アメリカのリベラルなメディアの情報の影響を受けてきたが、慰安婦の強制連行の証拠はなく、慰安婦の待遇も言われているほど酷くはなかったことを知った〉という意味のことを、インタビューの合間に、断片的にしゃべった。態度は紳士的で、藤岡の話に批判的な眼を向けたりすることはなく、かといってなれ合うでもなく、ごく普通の学生のように見えた。

 藤岡は慰安婦問題の起こりから現状まで系統立ててたどり、慰安婦の「強制連行」説はどのように崩壊したか、なぜ慰安婦は「性奴隷」ではなかったといえるのか、「20万人」説がなぜ荒唐無稽な数字なのか、などの論点をわかりやすく、体系的に話した。約束ではインタビューは一時間の予定であったが、実際は一時間半程度の長さになった。出崎の質問のなかに特にユニークな、印象に残るような内容のものはなかった。藤岡は大学の授業のちょうど1コマ分に当たる90分のレクチャーを、無償で上智大学の三人の大学院生を相手に施したことになる。

  藤岡がこのインタビューを引き受けたのは、出崎が上智大学の大学院修士課程に在籍する学生であり、修士課程を修了するための修士論文に相当する「卒業制作」として、この映像作品を仕上げて大学に提出するためである、との説明を受けたからである。それが最大の、決定的な要因であった。

 よもや一般の映画館で上映する商業映画の素材として、しかも藤岡を貶める材料として自分の発言が使われるなどとは夢にも思わなかった。藤岡はいかなる意味でも、作品の商業的な公開を許可したことはない。もし、それが商業映画だとわかっていたら、初めからインタビューに応じることはあり得なかった。出崎は契約違反を犯し、平たく言えば嘘をつき、藤岡を騙したのである。

 騙されたのは藤岡だけではない。櫻井よしこ、加瀬英明、ケント・ギルバート、杉田水脈、山本優美子、トニー・マラーノ(テキサス親父)、藤木俊一、という錚々たる保守系の論客が出崎の毒牙にかかったのである。総計八名になる。

 ジャーナリストの江川紹子はツイッターで、「どういう口車であれだけの人たちを引っ張り出したのか、その手腕はすごいとひたすら敬服。どこかでその手法を語られているのであれば、ぜひ学びたい。皮肉ではなく、本当に」(5月7日発信)と書いた。出崎は八人のそれぞれの特徴を調べて、アプローチの仕方や対応を変えている。以下にやや詳細に述べるのは、その中の「藤岡ケース」にすぎない。ただ、以下の記述が少しでも江川の参考になれば幸いである。

(続く)

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