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慰安婦ドキュメント「主戦場」 デザキ監督の詐欺的手口 (4)

月刊Hanada 2019年8月号掲載

新しい歴史教科書をつくる会副会長
藤岡信勝

「承諾書」から「合意書」へ

 帰国後の九月三十日、出崎からメールが届いた。「先日、[テキサス親父事務局の]藤木俊一さんにインタビューさせていただきまして、その際に新しい合意書を作成致しました。添付をご確認くださいませ。ご覧いただき、こちらでご承諾頂けるかご確認頂けますでしょうか?」という文面だった。添付されていたのは別掲の文書(合意書)だった。

 合 意 書

出崎・ノーマン・エム(以下「甲」という)と、藤木俊一(以下「乙」という)は、甲の製作する歴史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画(以下「本映画」という)について以下のように合意する。

1.甲やその関係者が乙を撮影、収録した映像、写真、音声および、その際に乙が提供した情報や素材の全部、または一部を本映画にて自由に編集して利用することに合意する。

2.乙が甲に伝えた内容は個人の見解であり、第三者の同意を得る必要、または第三者に支払いを行う必要がないことを確認する。

3.本映画の著作権は、甲に帰属することを確認する。

4.本映画の製作にあたって、使用料、報酬等は発生しないことを確認する。

5.甲は、本映画公開前に乙に確認を求め、乙は、速やかに確認する。

6.本映画に使用されている乙の発言等が乙の意図するところと異なる場合は、甲は本映画のクレジットに乙が本映画に不服である旨表示する、または、乙の希望する通りの声明を表示する。

7.本映画に関連し、第三者からの異議申立て、損害賠償請求、その他の請求がなされた場合も、この責は甲に帰するものであることに同意する。

8.甲は、撮影・収録した映像・写真・音声を、撮影時の文脈から離れて不当に使用した り、他の映画等の作成に使用することがないことに同意する。

本書を2通作成し、甲乙ともに本書に署名・捺印致し、それぞれに保管するものとする。

 このメールで、藤岡は藤木も出崎のインタビューを受けていたことを初めて知った。この間、ジュネーブへの往復などで藤木とは頻繁に会う機会があったが、どちらからも出崎の取材の話は出なかった。普通、誰の取材を受けたなどとは、特別のことでもない限り他人に話さないものである。ここまでのところは、出崎のインタビューを受けたことの中に、藤岡にとって「特別なこと」は何もなかった。

 ただ、藤木の場合も、映像・音声機器の開発・販売の会社を経営し、ビジネスの世界で生きてきたので、出崎の承諾書を見て、藤岡が外国のテレビ局の契約書に感じたと同様の異様な片務性を感じとったに違いない。

 その合意書を読んだ藤岡は、これは比較的よくできていると思った。5・6・8項に、取材対象者の権利がキチンと書き込まれているからだ。藤木は相当注文を付けたに違いない。そこで、合意書の「藤木」を「藤岡」に変えて送るように返信した。

 時が流れて約二年後の二○一八年五月二十一日、出崎は藤岡のインタビューの映像を送ってきた。ところで、それは「クリッピング」だという。全編はいずれ改めて送ってくるのだろうと藤岡は思った。自分だけの映像なら見る必要もない。それが映画の全体の中にいかに組み込まれているのかが重要だ。

 例えば、藤岡の発言の前に、「『歴史修正主義者』の藤岡はこう語る」というナレーションを入れて藤岡の映像を入れても、クリッピングを見ただけではその処理はチェックできない道理だ。そして、これは実際に起こったことなのだ。

 後で分かったことだが、藤岡がサインした合意書は、確かに藤木が全体的に手を入れたものだった。出崎のつくった「承諾書」という文書名を「合意書」と変更し、「甲・乙」で表記する形式にしたのも藤木の修正だった。何よりも重要なのは、「承諾書」にあった次の一項が「合意書」にはないことだ。

 《5 製作者またはその指定する者が、日本国内外において永久的に本映画を配給・上映または展示・公共に送信し、または、本映画の複製物(ビデオ、DVD、または既に知られているその他の媒体またはその後開発される媒体など)を販売・貸与すること》

 これほど詳細かつ具体的に、制作者側のやりたい放題の権利を書き込むとは、ずうずうしいにもほどがある。「合意書」でこの5項が拒否され、明確に否定されたことは、今配給会社を通して上映されているような事態を「合意書」が認めていないことを意味する。

  それだけではない。「合意書」には

 《8 甲は、撮影・収録した映像・写真・音声を、撮影時の文脈から離れて不当に使用したり、他の映画等の作成に使用することがないことに同意する》と書かれている。出崎のその後の行動は、この規定を破っていることが明白だ。この点に関して、二つの重大な事実を指摘したい。

(続く)

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